管理会社が行う滞納マンション管理費等の督促業務の範囲が争われた裁判例(東京地方裁判所平成15年(ワ)第21884号,平成16年(ワ)第8217号・平成18年7月12日判決)をご紹介します。
事案は以下の通りです。マンション管理費等の滞納問題を解決しかねていた管理組合が,このマンション管理費等の滞納問題がなかなか解決しないのは管理会社が回収業務を怠っているからであると考え,管理会社に対して支払うべき毎月の管理委託費を支払わなくなりました。そこで,管理会社が,管理組合に対して,管理委託費の支払を求め訴えを提起した,という案件です。訴えられた管理組合は,逆に,管理会社に対し,管理会社が管理委託業務の履行をしていないことにより損害を被ったとしてなどとして,その支払を求める反訴を提起しました。
本裁判例では,管理委託契約に基づき本件管理会社が負う滞納マンション管理費等の督促業務の範囲(争点①)と,これを前提に本件管理会社がその督促業務をきちんと履行したか(争点②),という点がもっぱら争われました。
本件の管理委託契約書では,支払請求(内容証明郵便による支払請求)を行えば,実際に回収することができない場合であっても管理会社は責任を負わない,内容証明郵便による請求以後の取立については,管理組合と管理会社との間で別途協議する,といった記載がありました。
ただ,本件の管理委託契約は更新されているところ,更新の前後で記載が異なること,また,契約書記載の業務内容と管理会社HPに記載されていた業務内容とが異なっていたこともあり,管理組合側にも混乱があったのではないかと思われます。
1つ目の争点(①)については,管理会社は適宜滞納マンション「管理費等の支払請求をし,未納者に対しては内容証明郵便により請求すると共に,その未納の状況について…毎月月次報告書に記載して報告すべき」と更新後の契約書の記載に近いところで認定され,2つ目の争点についても,管理会社は争点①で認定された業務をきちんと履行していたと認定され,結論として,管理会社の請求が認容され,管理組合の反訴請求は棄却されました。
この裁判例からいえることは,管理委託契約書の記載内容,管理会社の業務内容・範囲を,管理組合・管理会社間で共通の認識・理解としておくことが不可欠だということです。
管理組合の理事者の中でも,管理会社が最後まで滞納問題に対処してくれると思っていたという声も聞かれるところです。管理会社においても,誤解を招きやすいポイントの1つであるということを認識した上で,管理組合側にきちんと伝え説明しておけば,管理組合の誤解を招くこともなく,本裁判例のような事態に発展するようなこともなくなると思われます。
本裁判例では,マンション管理費等の滞納額が1000万円を超えていました。健全なマンション管理を阻害する多額な滞納状況といえます。
管理組合としては,滞納マンション管理費等の滞納状況などから,管理会社の業務範囲を超えるかどうかを常に意識し,業務範囲外の滞納状況と判断されるような場合には,管理会社や弁護士などとその後の回収方法を具体的に検討し,滞納分の確実な回収を図り,健全なマンション管理に繋げたいところです。